【ビジュアルで楽しむ7000年の元素ロマン】世界を形づくる「何でできているか?」を探る旅──美しい図版と物語で紡ぐ『ビジュアル 美しい元素の歴史図鑑』
人間は古来から「世界は何でできているのか?」という問いに挑み、数千年にわたる探究を重ねてきました。そんな根源的な問いに光を当てるのが、本書 『ビジュアル 美しい元素の歴史図鑑』 です。著者は化学・科学史分野で名高いフィリップ・ボール氏。ロンドン王立協会科学図書賞を受賞し、『ネイチャー』誌編集者として20年以上活躍した経歴の持ち主です。
この図鑑が目指すのは、単なる物質の分類や原子の説明に留まりません。先史時代に始まり、古代ギリシャ・ローマ、錬金術の時代、化学革命、電気と周期表の誕生、放射線時代、核技術の到来まで――7000年に及ぶ元素発見の物語を、美しいビジュアルとともに読み解くビジュアル叙事詩なのです。
本書はまず「古代の元素観」からスタート。金・銀・銅など、古来より人類と親しんできた金属の起源と文化的意味、そして元素観が思想や錬金術に与えた影響を紹介し、哲学的世界観との関わりを丁寧に描いています。さらに「錬金術の元素」では、エーテルやフロギストン、カロリックといった“偽の元素”としてかつて信じられていた物質のエピソードを挟み、読者に錬金術的思考の興味深さを体感させます。
続く章では、ジョン・ドルトンによる原子説から周期表の誕生まで、近代科学における元素の体系的理解の歩みを追います。図版は歴史的な道具や実験装置、元素のサンプル写真、古文書や現代データを織り交ぜた構成で、科学史に対する視覚的な没入感を生み出します。
また、本書の大きな魅力は、理化学研究所が発見した「ニホニウム」など、最新元素の発見とその背景を日本視点で扱っていることです。これは単なる世界史ではなく、「私たちの時代に属する元素」も含めた現代的視野が持たれた内容となっています。
本書の構成は以下のように整理されています:
- はじめに、周期表
- 第1章:古代の元素観
- 第2章:古代から知られている金属
- 第3章:錬金術の元素
- 幕間:「結局、元素とは何か?」
- 第4章:新しい金属
- 第5章:化学の黄金時代
- 幕間:「ジョン・ドルトンの原子説」
- 第6章:電気を使って元素を発見する
- 幕間:「周期表の誕生」
- 第7章:放射線の時代
- 第8章:核の時代
図鑑としての魅力は、質・量ともに充実したビジュアル資料と、元素発見を巡る人間ドラマを同時に楽しめる点にあります。単に元素記号や性質を並べるだけでなく、それを発見した人物、時代背景、技術革新、政治的・社会的要因を丁寧に紡ぎ出し、読む人に感情移入させます。
化学に詳しくない読者でも、「なぜこの元素が注目されたのか」「その発見が人類にとって何を意味したのか」を目線を合わせた語り口で理解できるよう工夫されています。また、元素そのものが持つ色彩・結晶形・反応性・用途など、視覚と知的好奇心を刺激する情報量が豊富で、眺めているだけでも発見に満ちた世界が広がります。
教育現場や科学好きの読者にはもちろん、アートやデザインの視点から自然の美や歴史を探求したい方にも強くおすすめです。周期表という形式を超えて、元素そのものの「物語」と「美学」を余すことなく提示する一冊といえるでしょう。
創元社から2025年4月30日に刊行された本書は、224ページ、B5変型判サイズで、持ち運びや読みやすさも配慮された構成です。
最後に強調したいのは、この図鑑が単なる科学書ではなく、「人類の知識への旅路を視覚で感じる叙事詩」であるということです。原初から始まった元素への問いが、哲学、錬金術、実験、科学技術へと昇華し、現代の私たちまでつながる。本書は、過去と現在、自然と文化、科学と芸術をつなぐ架け橋です。元素にまつわる歴史と美を一冊に詰め込んだこの図鑑を手にすれば、物質世界という壮大なパズルのピースが、あなたの目の前でゆっくりと組み上がっていくことでしょう。
ぜひこの『ビジュアル 美しい元素の歴史図鑑』で、元素の歴史と美、そして人類の知の探究を堪能してください。