幻想文学怪人偉人列伝。国書刊行会編集長が綴る出版秘話と知の回想録。文学界を彩る怪人と偉人たちの破天荒なエピソードを凝縮した単行本。愛書家垂涎の舞台裏と幻想文学の深淵に触れる、本を愛する全ての人へ贈る一冊。

本という迷宮の門を叩くとき、そこには必ず、その道を開拓した異能の人々が存在します。本書「幻想文学怪人偉人列伝」は、日本の出版界において唯一無二の光彩を放ち続ける国書刊行会の編集長として、数々の奇書や名著を世に送り出してきた著者が、自身の半生を彩った「怪人」や「偉人」たちとの交流を鮮烈に描き出した傑作です。ここで語られるのは、単なる業界の裏話ではありません。それは、文学という魔物に取り憑かれた人間たちが織りなす、滑稽で、哀切で、そして圧倒的に高潔な、魂の交歓の記録です。

この本の最大の魅力は、登場する人物たちのあまりにも濃密な個性と、それを描く著者の慈愛に満ちた、しかし冷徹なまでの観察眼にあります。古今東西の知を渉猟し、採算度外視で理想の書物を追い求めた伝説の編集者や、孤高の作家たち。彼らが発する言葉の一つひとつが、インクの香りと共に紙面から立ち上がり、読者を未知の熱狂へと誘います。出版不況と言われる現代において、これほどまでに一冊の本に対して命を削り、狂気的なまでの情熱を捧げた時代があったのかと、深い溜息が出るほどの感動を覚えます。

私自身、この書物を読み進める中で、本を作るという行為がいかに孤独で、かつ尊い闘いであるかを再認識させられました。著者が語る回想のひとつひとつは、書物の背表紙の向こう側に広がる広大な精神の宇宙への招待状です。幻想文学という、現実の裂け目から覗く真実を追い求めた者たちの群像劇は、物語を愛するすべての人の胸に、忘れかけていた知的好奇心の火を再び灯してくれることでしょう。国書刊行会という、独自の美学を貫く版元がいかにして「奇跡の出版」を続けてこれたのか。その謎が、著者のユーモアを交えた筆致によって少しずつ紐解かれていく過程は、至福の読書体験です。

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筑摩書房
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また、本書は一つの時代の文化史としても極めて貴重です。紙の質感、文字の配置、装丁の美学。一冊の物理的な「本」が完成するまでの血の滲むような試行錯誤の物語は、デジタル時代を生きる私たちに、手に取ることのできる知恵の重みを静かに問いかけます。

これは、本を愛し、言葉に救われ、物語に人生を捧げたすべての人に捧げられる聖典です。最後の一ページを閉じたとき、あなたの書棚に並ぶ一冊一冊の背表紙が、これまでとは違った、より深い輝きを放ち始めていることに気づくはずです。知の最前線で戦い続けた者だけが見ることのできた、美しくも妖しい、幻視の記録をその手に取ってみてください。